【戦略】規格・標準(Standard)を活用することで市場を創造する

2020年01月24日

身の周りに溢れている規格・標準(Standard)


規格・標準と聞いて、あまりピンと来ない人もいるかもしれないが、我々の身の周りには標準に溢れている。例えばコンセントは、どの家やオフィスでも同じ形をしている。これは日本工業規格(JIS)によって規格化されていることで、互換性や品質が担保され、どんな電気製品のプラグも差し込むことができる。あるいは、非常口の標識の「緑の人」なども、標準のひとつである。これは国際標準化機構(ISO)により、緑の人は非常口を表すということを定めており、文字に依存せずに情報・認識を共有することが可能となる。

このように、身の周りを見渡すと、「標準」があることにより、我々の生活の便利さや安全・安心が担保されていることに気付くだろう。

社会の安全性・利便性を担保するための標準の例


戦略的に技術を開示するオープン化戦略の重要性


視点を変えて、「標準」について事業開発側の立場で考えてみよう。

標準化のメリットは、前述の通り、互換性や市場受容性が高まることで、その製品・サービスの市場自体が確立され易くなる点である。一方、デメリットとしては、技術仕様がオープンになることで、その技術自体が差別化要素にならず、競争環境が激しくなる点にある。

スタートアップの製品・サービスは、「世の中に無い」ものを、「圧倒的なスピードで」作りあげていくことに価値がある。その際、自社の技術をオープンにしていき、市場自体を確立させるオープン化戦略の重要性は、一般的な事業開発以上に重要な位置づけとなる。

図1.オープン/クローズ戦略の全体像


標準の3パターン、①デジュール、②フォーラム、③デファクト


標準には大きく3つのパターンがある。①公的な標準化機関による合意を経て作成されるデジュール標準、②特定分野の標準化に関心がある企業群の合意で作成されるフォーラム標準、③合意プロセスを経ずに事実上の標準となるデファクト標準、の3つである。

技術開発のスピードが早いIT分野では、フォーラム標準が使われることが多い。WifiやBluetoothなどの通信規格などが代表的であり、IEEEのような民間団体が主導する場合や、特定の企業コンソーシアムでの共同開発がベースになる場合もある。いずれも、ISOやJIS等のデジュール標準よりも早い合意プロセスにより作成されるメリットがある。

表1.標準の類型(経済産業省(2016)「標準化実務入門」を参考にPnika作成)

フォーラム標準による”自主規制”が市場を創造する


スタートアップが新たな市場を創造する場合、フォーラム標準は有効である。例えば、国内で電動キックボード等の開発・製造を行う5社(株式会社Luup、株式会社mymerit、株式会社mobby ride、AnyPay株式会社、Zコーポレーション株式会社)は、マイクロモビリティ推進協議会を設立し、共同での安全認定制度を立ち上げた。

電動キックボード - emaは、マイクロモビリティ推進協議会員3社合同での乗車体験会・行政関係者向けの説明会を実施致しました

この安全認定制度は、5社が相互に機体の安全性を確認しあうプロセスを規定するものである。これは、電動キックボードのような既存のルールでは規定されていない製品を世に出すにあたって、「自主規制」を行うことにより、その安全性を外部に説明しやすくしている。

このコンソーシアムに参画している各社は、規制のサンドボックス制度を用いて、各地で実証事業を展開中だ。実証結果を踏まえ、安全性のエビデンスを積み上げたうえで、最終的にはこの自主規制の内容や基準を、規制に引用させることができれば、市場の確立と先行利益の確保を両立することができるだろう。

図2.マイクロモビリティ推進協議会の安全認定マーク(株式会社mymeritリリースより転載)


自社技術の規格化を加速させる”新市場創造型標準化制度”


このように、標準化・規格化はイノベーションを社会実装するにあたって重要なプロセスである。そこで経済産業省は、日本企業の独自技術の標準化・規格化を促進するために”新市場創造型標準化制度”を2014年に立ち上げた。

従来のISOやJISで規格を策定する際、まず業界団体を立ち上げ、団体内のコンセンサスを取りながら規格原案を作成するというプロセスが必要であり、これに非常に時間と労力がかかってしまう。そこでこの制度は、経済産業省が規格の制定を支援することで、この業界団体による原案作成プロセスを省略できるという制度である。

この制度は概ね通年、制度利用者を募集している。申請前に、標準化アドバイザーへの事前相談等も可能であり、詳細は経済産業省WEBサイトを参照されたい。
新市場創造型標準化制度について


新市場創造型標準化制度について(経産省WEBサイトより転載)

図3.新市場創造型標準化制度の概要(経済産業省WEBサイトより転載)


また、こちらの制度を実際に利用したCYBERDYNE社のインタビュー記事についても、利用を検討するにあたっての参考になるだろう。
「製品・サービスを社会実装するためのルールメイキングとは」J-Startup Hour #50

(執筆:中間康介)


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