SNSの誹謗中傷にルールはどう立ち向かうのか?

2020年06月13日


SNSの誹謗中傷を巡る問題が、常に起きている。
誰もが遠く離れた場所で、指一本で、人を傷つけることが可能になったからだ。カフェで一息つきながら、子どもの面倒を見ながら、恋人と話しながら、罪悪感を感じず。

元々インターネットの掲示板でも問題になっていたことが、SNSによって「多くの人がそれを言っているように見える、見せる」「拡散をすることが容易」になったことが、それをさらに助長する。

では、SNSは悪なのか。
そうではない。

「アラブの春」のように国民をエンパワメントし、民主化を進めるキッカケにもなる。

ナイフと一緒だ
料理も出来るが、人を刺すことも出来る。

ただ、ナイフで人を刺すより、圧倒的にSNSで誹謗中傷する方が多いだろう。
そもそもSNSの場合、“それ”を悪いと思ってすらいないのではないだろうか。

今回は、SNSの誹謗中傷にルールはどう立ち向かうのか、考える助けになればと記事をしたためたい。

1.SNSの急激な普及

2019年時点で、世界のSNSユーザー数は34億8,400万人と言われています。世界の約45%の人が使っている計算になる。

そして、日本のSNSユーザーは2020年末に7,937万人になると言われている。

そして、これらは短期間で急激に普及している。
日本でもユーザーが多い、Facebookは2010年、Twitterは2011年に日本法人が設立されており、ここまで普及しているにも関わらず「ようやく10年」になる。

そして、人が増えれば問題も増えるもので、SNSもその例に漏れない。


SNSは、それぞれ特性が異なるため、問題になる点も異なる。


中でも誹謗中傷において、話題になりやすいのはLINEとTwitterだ。

LINEは「リアルで行われる内輪いじめの延長」に使われることが多い。
Twitterは「ネットでの公開私刑」に使われることが多い。

いずれも深刻な問題だが、「ネットでの公開私刑」はSNS特有の問題を露わにしている。

みなさんの記憶に新しい痛ましい事件もこれにあたる。

また、SNSではないが、このような事件は20年以上前から起きている。

SNSを開いていれば、世間の注目度や程度の差はあれど、探す手間もなく、誹謗中傷や暴言は日常的に目にすることが出来る。

中傷を受ける側には、大きい問題。しかし、中傷する側は罪の意識がないケースも多い。また、中傷を受ける側自身が過激な発言をするタイプだと、それを免罪符だと言わんばかりに中傷する側も過激になるケースも多い。

やや極端なケースになるが、下記の記事はそれを良く表している。


2019年、法務省が救済手続きを始めた「インターネット上の人権侵害」の件数が、1,877件あったという。

2.既存のルール

“そもそも”になるが、各SNSには利用規約がある。

また、日本の法律にも、SNS・インターネットによらず、名誉毀損やプライバシー侵害といった人格権の侵害にあたるものには、名誉棄損罪、侮辱罪、脅迫罪などが適応される。

「表現の自由」を盾にする言説も見受けられるが、他者の人権との衝突が生まれる場合には制約を受けることもある。

そのため、削除請求や発信者の開示請求という手段が存在するが、ここで難しい課題が出てくる

まず、誹謗中傷と批判のラインを客観的に切り分けるのは難しい

そのため、各SNSのプラットフォーマーが応じる「情報(コメントなど)の削除」「発信者(加害者)情報の開示」には、免責事項が法律で定められている。この法律は「プロバイダ責任制限法」と呼ばれる

これは「被害者救済」と「表現の自由」というバランスを取るものではあるが、一方でプラットフォーマーは、明らかな誹謗中傷や人権侵害の発言であっても「表現の自由」の免罪符による放置をしやすくなるものでもある。


結果的に、被害者は「明らかな誹謗中傷や人権侵害が行われた」という証明をする必要性があり、金銭的、時間的、精神的コストが掛かるため、削除や開示請求に踏み切れないという状況が生まれてる。

実際、現行の開示請求制度では数十万円の弁護費用がかかるとも言われている。

また、誹謗中傷と批判のラインの切り分けが難しいことは、「私の発言は批判だからOK」という思考を生むことにもなる。「正義マン」という言葉が生まれる背景もここにあるのかもしれない。

3.新たなルールと論点

こういった課題は長年話し合われてきた。
直近であれば、前述の木村花さんの事件のあとに大きな動きがあった。

1つ目、 「プロバイダ責任制限法」の見直しを検討する研究会が2020年4月23日に開催された。所管する総務省は、同年夏頃を目途に中間報告の取りまとめを行う予定を示している。

これには、 高市早苗総務大臣や菅義偉官房長官も、誹謗中傷に対する被害者救済対応の改善を推進することに積極的な発言をしている。

これによって、誹謗中傷への対応の事務負担増に耐えられなくなると判断したSNSが閉鎖するといった話もでている。

2つ目、「ソーシャルメディア利用環境整備機構」の設立。これには、Twitter Japan、Facebook Japan、LINE、ByteDanceの日本法人も含め、13社のインターネット事業者が加盟し、設立された。

SNS上での児童被害やいじめ防止、違法・有害コンテンツなどのさまざまな課題に対して、業界全体での対応策を講じることが活動目的となる。

ただ、「これをしたら、問題解決!」という解決手法があるわけではない。
ここで、論点を整理してみよう。


また、もう一つ大事な議論がある。
それは仮に「まっとうな批判」であっても、否定的な口撃を一斉に浴びることがその人の人格を強く侵害し、その人を追い詰めることに繋がるのではないか、ということである。

これは、起業家のけんすうさんが示唆深い記事を挙げている。


これに対して「まっとうな批判ということは、それを受ける側に問題がある」という意見もあるだろう。1の罪に100の罰が下されることは適切なのか。それは、私刑ではないのか。

ちなみに英語圏で、私刑はMob Justice(暴徒による正義)と呼ばれている。
批判をする際に、私たちは暴徒であるのか、適切な指摘者であるのか

こういった議論もまた重要な話だと私は思う。

また、ルールだけでなく、テクノロジーやアーキテクチャによる手段の模索もある。この分野はこれからAIやデータ解析の活用が重要になってくるため、新しいサービスが生まれてくることが予想される。

さいごに

今回、「SNSの誹謗中傷にルールはどう立ち向かうのか」をテーマに、情報をまとめてみました。少しでも考えるきっかけや助けになれば幸いです。

(執筆:深山 周作)

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◆参考文献

  1. インターネット誹謗中傷・人権侵害等の対策PT_20200610|youtube
  2. SNS上の誹謗中傷への規制のあり方|note
  3. 誹謗中傷かどうかよりも、批判の量のほうが問題じゃないかなという話|note
  4. 【2020年版】海外SNSランキング | 世界と日本のSNSユーザー数と普及率の違いとは?|Digima
  5. SNS中傷規制「政治に批判的な言論、封じる懸念」 憲法学・志田陽子教授|毎日新聞
  6. SNS『mstdn.jp』、誹謗中傷への対応の事務負担増に耐えられないと判断して6月30日で閉鎖へ|yahooニュース
  7. Twitterルールとポリシー|Twitter
  8. スマイリーキクチ中傷被害事件|wikipedia
  9. インターネットを悪用した人権侵害に注意!|政府広報オンライン
  10. 三大SNSの特性と支持を得た理由|電通報
  11. 突然ですが、ソーシャルメディアにまつわる”本当にあった心温まるお話”をご紹介します。|Social Media Lab
  12. 「アラブの春」と中東・北アフリカ情勢|外務省
  13. Yahoo!ニュースがコメント機能を続ける理由~1日投稿数14万件・健全な言論空間の創出に向けて~|yahoo
  14. テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ|文春オンライン

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