「新事業特例制度」とは?|企業単位で規制の特例措置を受けられる制度を一挙解説!

2020年04月17日

はじめに

「事業を始めたいけど、既存の規制にぶつかっているから、展開は難しいかも...」

こんな悩みに直面されている事業者の方も少なくないのではないでしょうか。今回は、こうした課題を抱えるイノベーター側から、その規制の趣旨として置かれているリスク(危険性等)に対応することを条件に、特例措置を提案できる新事業特例制度について解説します。

概要

経済産業省は「企業の個々の事業内容に即して規制改革を進めていくことを狙いとして創設された制度」として ①プロジェクト型「規制のサンドボックス」、②グレーゾーン解消制度、③新事業特例制度 を設置してしています。

このうち、新事業特例制度は、「新しく始める事業において、規制にぶつかっており、特例措置を設けて欲しい場合に、国に要請し、安全面等に配慮することを条件に、企業単位で規制の特例措置を受けられる制度」となっています。

「〇〇という”事業”を始めようとすると、現行規制の▲▲という規制にぶつかるが、規制の本来趣旨(危険性等)に問題がない根拠もあるため、特例を認めてほしい」というイノベーター向けの制度です。

グレーゾーン解消制度に関して事前相談を行った際に、「グレーかもしれない」との判断を受けた場合や、実際にグレーゾーン解消制度の照会書を作成して申請を行った後に「規制に抵触している可能性がある」という回答を受けた場合にも活用できる制度となっています。

新事業特例制度を含む「規制緩和制度」の全体を見渡したい方は、以下の記事もご覧ください。

制度の特長

この制度の特長として、①企業毎に要望を行うことが可能 ②事業所管省庁がしっかりとサポートしてくれる ③特例措置を活用した結果、規制の撤廃又は緩和の為の措置が全国展開される可能性がある、という点が挙げられます。

「事業所管省庁」とは、事業者が展開している事業を所管している省庁のことを指します。新事業特例制度では、事業所管省庁を通じて、規制を所管する「規制所管省庁」へ折衝を行う流れとなっています。

規制を所管する省庁に対して、事業を所管する省庁が事業者と伴走しながら橋渡し役を担ってくれる点は、イノベーターにとって心強い部分であるといえるでしょう。

この制度を活用して、規制の撤廃又は緩和の為の措置が全国展開された例としては、「アシスト力の大きいリヤカー付電動アシスト自転車の公道走行」のケースが有名です。

東京、北海道、神奈川、京都、大阪、福岡で実証を行い、様々な条件下での走行時の安全等について十分な実証結果が得られたことから、規制が緩和(道路交通法施行規則が改正)され、アシスト力の上限を踏力の3倍とするリヤカー付三輪電動アシスト自転車の活用が一般的に可能となった。

したがって、この制度を活用し新しい事業の”安全性”を立証することができれば、現行の規制の撤廃・緩和を促すことができ、結果的に新たなビジネスモデルやプロダクトをスケールさせる機会にも繋がるといえます。

申請の流れ

この制度は、3つのプロセスによって構成されています。

  • 特例措置の要望を出す
  • 実際に特例措置を活用して”安全性”が担保されていることを立証する
  • 規制の緩和や撤廃を全国化する

順を追って見ていきましょう。

第1段階:特例措置の要望
まずは新事業特例制度の問い合わせ先となっている経済産業省の新規事業創造推進室へ相談を行います。
(経済産業省 経済産業政策局 産業創造課 新規事業創造推進室,03-3501-1628(直通),shinjigyo-kaitaku@meti.go.jp)

その後、この制度の活用が適していると認められた場合には、規制の特例措置に関する要望を、「新たな規制の特例措置の整備に係る要望書」という書類を通じて、事業所管省庁へと提案します。事業所管省庁はこれを受けて、規制所管省庁との折衝を行います。原則、1ヶ月以内に、当該提案に対する回答が事業者に向けてなされます。

省庁間の検討は、この要望書をベースとして行われる為、必要な事項は出来る限り具体性を持って記述する必要があります。

第2段階:特例措置の活用
第1段階において「規制の特例措置を認める」といった方向に話がまとまり、実際に特例措置が規制所管省庁によって創設されたならば、実際に特例措置を活用する段階に入ります。

事業者は「新事業活動計画」を策定し、事業所管大臣に申請します。この計画のポイントは、「規制の特例措置を活用するに当たって実施する安全性等を確保する措置内容」を明確に記述することです。新事業の仕様やスキームに照らし合わせ、安全性の確保を十分に立証する必要があります。

この計画を受けて、事業所管大臣は規制所管大臣の同意を得て当該計画を認定します。事業所管大臣から、事業者に対して認定書が交付されると、晴れて活動計画に沿って新事業を展開できることになります。

新事業活動の実施状況については、年1回の定期的な報告が必要とされています。規制の特例措置の活用方法や、安全性を裏付ける実際のデータを報告することが望ましいでしょう。

第3段階:特例措置の一般化・全国展開
上記の新事業活動計画に沿った事業実施を踏まえて、事業所管大臣から意見が出される場合があります。この意見を受けて、規制所管大臣は現行の規制に関して検討を行います。このプロセスによって、「規制の撤廃又は緩和のための措置」が全国展開される可能性もあります。

経済産業省の資料には以下のようなフローが示されています。

※新事業特例制度」申請書は以下のページよりダウンロードが可能です。

注意するべきポイント

新事業特例制度では、「規制が求める安全性をどのように克服するのか?」という点に関して丁寧な説明を行う必要があります。この点に関しては、新しく始めようとしている事業スキームやプロダクトに関して構想・設計段階から十分な検討を行う必要があるといえます。

また、相談窓口に相談した際、他の「規制緩和制度」を用いた方が有効かもしれない、という提案を受ける可能性もあります。規制に関して懸念点がある場合には、早めの相談が望ましいといえます。

まとめ

規制がボトルネックとなっている場合、この「新事業特例制度」を活用し、特例措置の適用を受けながら、新しい事業の”安全性”を証明することで、そのボトルネックを上手く乗り越えていくことができるかもしれません。

規制にぶつかっていることが明らかな場合のみならず、ぶつかっているかどうか不明瞭な場合であっても窓口に相談してみることで論点がクリアになる場合があります。イノベーティブなアイデアを世の中に普及させていく為にも、”規制”という壁に直面した場合には「新事業特例制度」の活用をぜひ検討してみてください。

(執筆:町田 太朗)

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参考文献

  1. 産業競争力強化法に基づく企業単位の規制改革制度について|経済産業省
  2. 産業競争力強化法「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き|経済産業省
  3. プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度・グレーゾーン解消制度|経済産業省
  4. 【まとめ】イノベーターが活用出来る国の4つの「規制緩和制度」|Pnika

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