【基礎編】これだけ抑える。「”通称”スーパーシティ法案」のポイント

2020年03月13日


この記事のポイント

  1. 2019年度に国会に提出、廃案し、再度提出をされた「通称:スーパーシティ法案」の経緯、内容のポイントをわかりやすく抑える

はじめに

『スーパーシティ法案』という言葉が2019年に地方創生や規制改革に注目する人々の間を賑わせました。一言で表現すると「最先端テクノロジーを駆使した『まるごと未来都市』をつくる構想を実現する法案」と言われています。

ただ、この説明を受けて「なるほど、よくわかった!!」という人はあまりいないのではないでしょうか。ここで少し内閣府の資料にある概念図を引用してきます。

(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

「なるほど、街づくりに必要な要素にテクノロジーを駆使して効率的・効果的にするのか!」ということはなんとなくわかりつつ、「え、スマートシティと何が違うの?」という疑問が出てくる方も多いのではないでしょうか。

そもそも、スーパーシティ法案は、2019年度内に2回断念(通常国会で廃案、臨時国会で見送り)され、2020年2月に再度閣議決定され、国会に再提出されたものになります。法案が成立するのかどうかを見送る間にこの法案が一体どのようなものなのか、おさらいをしたいと思います。

今回は、政府の公開資料及び実際にPnika編集部として政府関係者からヒアリングした情報を元に「スーパーシティ」を理解するための基本的なポイントを整理しました。

ポイント1.スーパーシティ法案=国家戦略特区法の改正法案

まず、『まるごと未来都市』の実現を目指す思想・取組は、スーパーシティ構想と呼ばれています。

そして、スーパーシティという言葉が先行していて誤解しやすいのですが、”前提の前提”のポイントとして、スーパーシティ法案とは、その『まるごと未来都市』を実現するための「国家戦略特区法」の改正を指しています。

  • スーパーシティ構想=『まるごと未来都市』の実現を目指す思想・取組
  • スーパーシティ法案=『まるごと未来都市』の実現に必要な要件を盛り込んだ「国家戦略特区法」の改正を指している

つまり、『スーパーシティ法案=国家戦略特区法の改正法案』を指しており、基本的には『国家戦略特区』をベースとしたものであるということです。

現在の国家戦略特区についての詳細解説こちら!
規制に関わる特例措置を受けられる!|1からわかる「国家戦略特区」

ポイント2.スマートシティとの違いは、「まるごと感」

法案そのものの中身の前に、スーパーシティとスマートシティという言葉の違いについて考えてみます。この2つは言葉も似ていれば『街づくりにテクノロジー』というところも同様で違いがはっきりしません。

実際の政府の発言から、紐解いて行きましょう。

この『スーパーシティとスマートシティの違い』について、2019年の「地方創生フォーラム」にて内閣府・地方創生推進事務局審議官の村上敬亮氏はこう説明しています。

“1つは、様々なスマートを同時に行なっていること。2つ目が、技術の実証ではなく、暮らしへの実装であること。そして3つ目が、住民目線のプロジェクトであること。”(2019年の「地方創生フォーラム」、村上敬亮氏)

そして、スーパーシティについて内閣府公式サイトには、こう書いてあります。

”①これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組ではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組であること
②一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組であること
③さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること
という、この3要素を合わせ持ったものであると定義しており、これを「まるごと未来都市」と呼んでいます。この「まるごと未来都市」の実現を支えるのが、大胆な規制改革です。”(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

上記の2点から推察するに、明言していないものの便宜的にはスマートシティの上位概念として取り扱っていることが分かります。

つまり、スーパーシティがスマートシティと違う点は、下記が”必要要件となること”ではないかと考えられます。
  1. 構想に基づく、複数分野での横断的なスマートシティプロジェクトであること
  2. 各プロジェクトが相乗効果を生むこと
  3. それに際して壁となる規制を横断的に解消すること
  4. 一時的な実証で終わらないこと
内閣府の公式サイトでも、『未来都市』ではなく、『まるごと未来都市』とわざわざ書かれているだけあって、この「個別じゃダメ、まるごとじゃなきゃ」という意気込みが分かりますね。

そして、次のポイントで触れますが、スーパーシティ法案は、このスーパーシティの実現を支えるための内容が盛り込まれたものとなっています。

ポイント3.スーパーシティ法案は、「まるごと規制改革法案+α」

では、「スーパーシティ法案って結局何が出来るのか?」ということで法案の中身を見ていきましょう。法案には、大きく2つの役割があります。

“第一に、複数のサービスを同時に立ち上げるために、複数分野の規制改革を同時・一体的に進めていくための手続きの設定
第二に、データ連携基盤整備事業の事業者に対して、国や自治体が持つデータの提供を求めることができる、という既定の追加です。”(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

「規制」と「データ」の2つがカギになってくるようです。

まず、「規制」については、従来バラバラに各省庁に通さないといけないものが、”住民合意”を前提とした上で、”基本構想”で定められた事項に関しては「複数の特例措置を一括で実現」することが出来るようになるそうです。
(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)
これが効果を発揮する想定ケースも紹介されています。

“例えば、先ほどのA市の事例で言えば、本構想を実現するためには、国交省と自家用有償事業の制度について議論し、厚労省と遠隔診療について協議をし、金融庁とボランティアポイントについて議論する必要が発生します。
こういう課題が明確になっている事例に関しては、いずれの省庁も前向きに議論してくれると思います。しかし、やっとの思いで、金融庁と金商法上のセキュリティコインに整理したボランティアポイント制度が、国交省から見ると、そういうものであれば、ちょっと自家用有償事業としての「料金表」に認定するのは難しい。といったことになることが考えられます。
逆に、国交省から見て「料金表」に馴染むようなポイント制度に設計しようとすると、今度は、金融庁から見て金融制度上の仕組みに合わなくなる、といったように、複数のサービスを同時に実現しようとしても、各省庁のアドバイスを個別に伺っていると、どうしても、事業内容がバラバラになっていってしまう恐れがあります。(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

「データ」については、スーパーシティに認定された都市にて、内閣府の支援のもとデータ連携基盤を用意し、APIを経由して、データを連携させる目論見のようです。
(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

都市のデータ連携というと、現在も一部の国内スマートシティプロジェクトでは、EUを中心に採用が進むオープンソースの「FIWARE」(公式サイト)や、エストニアが構築しているX-Roadが有名ですが、データ連携基盤の構築に向けた調査設計などが3億円の令和2年度予算に盛り込まれているため、技術的にも施策的にもどのような内容となるかは注目です。

(引用:内閣府国家戦略特区公式サイト)

まとめ

現在、国会に提出されているスーパーシティ法案について基礎的なポイントをピックアップし、解説しました。いかがでしたでしょうか。筆者個人としては、「住民合意の手法」と「データ連携基盤内に含まれるプライベートデータを、複数サービスとの連携に際してどのようにコントロールするのか」を非常に注目しています。

Pnika編集部では、引き続き国会以降の動きもウォッチしていきます。

(執筆:深山 周作)

◆本記事に興味を持ってくださった方へ

Pnikaでは、弁護士や制度設計のコンサルタントといったメンバーの所属する専門性のあるチーム体制で、イノベーターのルールの悩みに伴走をしています。イノベーターはもちろん、ルールメイキングに興味のある方のご登録やご連絡をお待ちしています。
詳細はこちら(リンク)をご覧いただければ幸いです!
 

◆参考文献

  1. 規制に関わる特例措置を受けられる!|1からわかる「国家戦略特区」
  2. スーパーシティ(内閣府国家戦略特区公式サイト)
  3. FIWARE公式サイト



最新記事