【イノベーターインタビュー】最新技術で森林資源をもっと活用していきたい。(1)

プロジェクト
最新技術で森林資源をもっと活用していきたい
課題特定
森林管理へのドローン空撮導入に向けて

「最新技術で森林資源をもっと活用していきたい。」、そう語るのは、株式会社百森代表取締役の中井照大郎さん。東京で商社マンとして働いていた中井さんは、2017年に人口1,500人の岡山県西粟倉村に移住し、林業ベンチャーを立ち上げた。面積の9割が森林という村で、山主の集約化による、効率的な林業経営を推し進めようとしている。

Interview 01
株式会社百森(岡山県西粟倉村) × 造林補助金制度
中井照大郎/ SHOTARO NAKAI
(株)百森 代表取締役 共同代表
 




日本の林業と補助金制度

林業は、木材を売るビジネスとしての側面と、森林の多面的機能を維持する公共事業としての側面の両面が存在する。そのため、多面的機能の維持に資する作業(間伐等)については、補助金によりその作業コストが補填されている。補助金がなければ赤字となってしまう部分が多く、基本この補助金の活用を前提としながら林業は経営されているのが実情だ。

補助金の受給にあたっては、様々な手続きが必要になる。そのひとつが都道府県の職員による作業後の「現地検査」であり、申請内容と実施した内容に相違がないかなどを、林業事業者も同席のうえ、現地で確認する。検査項目には、面積、伐採率、搬出材積、などが存在する。また、間伐等の作業の前には事業者によって「標準地調査」と呼ばれる10m×10m程度の面積の全ての木を実際に測量する必要があり、現場の負荷が大きい。
 


ドローン空撮による森林管理の簡素化の可能性

現地調査の効率化にあたり、中井さんが注目したのが、ドローンの活用だ。技術革新により、安価なドローンにより地表を撮影し、撮影した画像をGPS情報と共に解析することで、測量をしなくとも木の本数や高さ等については把握ができるようになったのだと言う。コストとしてもドローン業者ではなく林業事業者が訓練することによってドローンで撮影をすることができるので、これまで事業者が標準地調査を実施する際にかかっていた人件費を考えると、十分にペイする見込みがある。さらに、都道府県側も併せて利用することで都道府県の検査コスト低減につながる。となれば、導入できるかどうかの問題は、ドローンによる調査が、補助金の受給に耐えうるデータ精度と恣意性の排除を証明し、都道府県を説得できるかどうかとなる。



2018年6月、Pnika代表の隅屋は、中井さんからの相談を受けた。Pnikaメンバーの中間がたまたま林学科出身であったこともあり、隅屋と中間で中井さんに伴走し、この課題を追うこととした。
 
①専門家ヒアリング、デスクトップ調査で課題と論点を整理

(不正発覚する度に厳しくなる制度と現場の疲弊)
中間の林学科時代の人脈で、複数の県林業職員にヒアリングを実施した。「現地検査」は、都道府県の職員側にもかなりの労力を割く作業であり、その業務負荷は、職員や林業事業者の人材不足の問題にも直結していると認識しているとのこと。その一方で、業界としては補助金の不正受給が後を立たず、不正が起きる度に検査の項目が増えてしまっているという事情もあるようだ(今まで現場写真の提出だけでよかったものが、現場写真とGPSデータもセットで提出しなければならなくなったなど)。ドローン空撮等で、より正確に森林の状態を把握できれば、申請者側のコストだけでなく、県職員の不正監視コストも削減できる可能性がありそうだ。

(検査の方法は県に裁量があり、県の「検査マニュアル」を変えることが必要)
公開情報を整理してみると、現在は、林野庁が示す「造林補助事業竣工検査内規例」に準じて、各自治体がそれぞれ地域の特性に応じて独自の現地検査マニュアルを作成しており、その中に「現地調査」の仕方も規定されている。林野庁の「内規例」には、調査にあたって「標準地調査等」を用いることと記載しており、それを受けて殆どの県が「標準地調査」を行うことを各県のマニュアルで定めているようだ。これは逆説的には、各県の裁量により標準地調査以外の方法を用いてもよいということではないだろうか。

②技術の信頼性を確認

中井さんは、某ドローンベンチャーとのコンタクトを進めていた。同社は、ドローンによる森林解析技術を開発しており、10月に両社で実際に西粟倉村の事業地にて試験を実施し、実際の取得情報の精度やデータの改ざん等が防げるか確認する予定だ。

 

(出所)平成29年度森林・林業白書(航空レーザ計測データを活用した施業集約化と林業経営の効率化の取組)より

③行政の認識と意向を確認

2018年8月、中井さんは林野庁へ訪問。林野庁も、現地検査の非効率に関する問題意識は同様であった。現状、林野庁が示す「造林補助事業竣工検査内規例」においては「現地検査」をすることは明記されている。現地検査自体はなくすわけにはいかないが、特に申請者側にかかっている手間に対して精度が低いとされる「標準地調査」の代替であれば十分に可能性がある…という感触を得たようだ。百森の次のステップとしては、県と協議を進める予定とのこと。

今後の展開

この技術の普及、および検査制度の変革は、林業事業者と県職員の両方のコスト低減や人手不足の解消につながる可能性がある。技術的には他県で先行しているように既に実用段階にあるため、県が定める検査指針・マニュアルにおいて、ドローン空撮による標準地検査の代替が認められるか、あるいは認められる形に更改されるかが今後の焦点となる。後も百森が制度改革に挑む活動に注目したい。



中井さんコメント

自分だけなら問題意識を持ったままなかなか日々の業務のなかで動けないところ、うまく後押ししてもらって具体的な打開策を検証するところまでこぎつけることができました。今後もPnikaに相談して、どんどん改善していきたいです。


Pnika担当コメント

中井さんの熱い想いに引っ張られながら伴走させてもらいました。調査を進めるにつれて、できない理由はそんなに無さそうなことが分かっていき、やろうと声を挙げる人が少なかっただけなんじゃないかなと思いました。こういった声を拾い上げて、形にしていくことをPnikaは応援していきます。

(中間康介)


+百森・中井さんプロフィール情報
1987年1月14日生まれ。東京都出身。大学でインドネシア語を研究し、卒業後は商社でインドネシアの天然ガス事業に従事。その後、再生可能エネルギーのベンチャー企業を経て、2016年度に西粟倉村のローカルベンチャースクールに参加。2017年、岡山県西粟倉村に移住し、株式会社百森を創業。現在に至る。
 
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