ITプラットフォームとデモクラシーの現在 「GLOBAL FORUM ON MODERN DIRECT DEMOCRACY」レポート

2018年11月15日

Pnikaでは、法や制度といったルールづくりに普通の人々が関わることができるカタチがもっといろいろあってもいいのでは?という関心のもと、それを可能にするITプラットフォームのカタチを模索しています。

2018年9月26日~29日、「GLOBAL FORUM ON MODERN DIRECT DEMOCRACY」が、イタリア・ローマで開催されました。ドイツのNPOであるDEMOCRACY INTERNATIONALによる「私たちのCITYがグローバルであると同時に民主的であるためには?」を考えるためのフォーラムで、7回目を迎えた今回は、五つ星運動※1の動向で注目を集める、ローマ市、イタリア共和国直接民主制担当相との共催となりました。4日間で、200の都市、80の国、115人のスピーカーによってデモクラシーについてのセミナー&ワークショップが行われましたが、そのなかで大きなトピックスの一つとなっていたのが、ITプラットフォーム。特に、世界の今の動きを感じられた、2つのパネルをレポートします。

会場はローマ市庁舎のあるカンピドリオの丘。


会場からはフォロロマーノが一望できました、贅沢!

 

 

ITプラットフォームとCITY

PANEL1:The best of local democratic governance from around the world
世界のローカルでの民主的ガバナンスのベスト事例

モデレーター:Fabio Chiusi(トリノインターネット&ソサエティのためのネクサセンターフェロー)
 ローマ市長Virginia Raggi、台中副市長Ying-Yi Lin、ウィーン副知事Maria Vassilakou、マドリード副市長Pablo Soto、元ジュネーブ首相Anja Guelpa Wyden、バルセロナ市長代理Francesca Bria、ソウル副市長Jin Sung Jun

 
主に行政側のアクターが、ローカルでの民主的なガバナンスの実践例をシェアするというこのパネルでも、目立ったのが市民参加プラットフォームの活用について。具体的に言及したのは、マドリード、バルセロナ、ウィーン、ローマのスピーカーでした。

・今ローカル・ガバナンス※2で必要なのは、行政と普通の人々のあいだの信頼の再構築。
 ・そのためにオープンかつ透明で市民参加を可能にする仕組みが必要で、直接民主制が有効。
 ・それを実現できるのが、ITプラットフォーム。
 ・小さく試す、実践することを優先。
 ・既存制度ではそもそも想定されていないので、システム全体の再考も必要。ITだけでは成立しない、物理的な言論空間と仮想的な言論空間の融合がポイント。

という点を各々がコメントしていました。

ローマは現在導入を準備中とのことでしたが、マドリード、バルセロナ、ウィーンではすでに稼動しており、熟議プロセスの導入(市中心部への交通規制、ストリートのリデザイン)、参加型予算などの事例が挙げられ、普通の人々(ordinary people)をどう参加(engage)させるかというフレーズが繰り返されていたのが印象的でした。

特にインパクトが大きかったのが、マドリードの「DecideMadrid」。


2011年の15-M(5月15日にマドリード中心部にあるプエルタ・デル・ソル広場で行われた既成政党への抗議集会、スペイン各地での大規模デモへと発展)のあと、しばらく既存政党との連携を模索したのち断念した彼らは、2015年の地方選挙において各地域で政党をつくり、代表を当選させました。マドリードもその一つで市長が誕生し、住民1%の署名でのイニシアティブ、参加型予算(現在予算額は1億ユーロ)を実現する「DecideMadrid」をスタート。ITプラットフォームで重要なことは、なによりも市民に信頼されることということで、開発状況もオープンにすると、市民からのアドバイスがあがりはじめ、最終的にはボランティアで100人規模の開発体制となったとのこと。現在では、マドリードでは約40万人が使用するプラットフォームとなり、Facebookの次に使用されています。

「DecideMadrid」はGitHubで公開されており、すぐにスペインの各都市、そして世界へと広がりました。現在では、トリノ、パリの住宅公社、NY、ブエノスアイレスを始め、100以上の都市が(ローマもテスト導入を経験済み)、そして、9月には、ウルグアイが国家として初めて採用したそうです。

デモクラシーはこれからCITY、ローカルが牽引していくんだという意気込みのようなものが強く伝わってくるパネルでした。

ITプラットフォームの現在

PANEL6:What are the most promising technological platforms for making our democracies more democratic?
私たちのデモクラシーをより民主的にする最も有望なプラットフォームとは?

モデレーター:Daniela Bozhinova(DEMOCRACY INTERNATIONAL、ブルガリア)
 Dion McCurdy(Newvote、オーストラリア)、Evgeny Barkov(Kaspersky Lab、ロシア)、Sean Evins(フェイスブック、EMEA(Europe, the Middle East and Africa))、Massimo di Felice(サンパウロ大学、ブラジル)、、Michael Summers(Smartmatic、オランダ)、Antonio Bosio(Samsung、イタリア)

 


次に紹介するのは、ITプラットフォーム側のアクターによる、デモクラシーのフィールドでのITプラットフォームの現在、未来についてのパネル。

・オンライン投票プラットフォームで、国際間での市場競争がすでに始まっている。
 ・ここでも重要なのは市民からプラットフォームが信頼されること、ブロックチェーンの採用は必然で関心が高い。
 ・face to faceの時代とe-democracyの時代は本質的に違うので、新しいかたちの参加の模索が必要。
 ・ハードウェアのセキュリティ面での技術開発(生体認証など)も進んでいる。
 ・オープンソースでアプリケーション提供するベンダーのビジネスは(目的は何であれ)収集したデータの活用による収益モデル。

現在、世界最大級のオンライン投票プラットフォームの会社だというSmartmaticは、少し調べてみると、世界中の選挙にサービスを提供していることがわかります。またロシアのKaspersky Labの担当者は「世界でもっとも先進的な民主主義の国からきました」と挨拶して場を和ませて?いましたが、この会社、日本にも子会社を持っているようです。

そして、最後の「データは誰のもの?」問題は、ITプラットフォームとデモクラシーを考えるうえで、EU一般データ保護規則(GDPR)や欧州ブロックチェーンパートナーシップの動きなどからわかるように、イデオロギー的にも大きな争点の一つになってきます。ここは(テーマが壮大なので)追々考えていきたいと思います。

この4日間のフォーラムで、世界中でITプラットフォームを活用した社会実験がローカルレベルから始まっているというのを実感させられました。「DecideMadrid」を紹介したマドリードの副市長Pablo Sotoさんの「直接民主制はなにも新しくはない。テクノロジーはゲームチェンジャーではない。でも、歴史上、直接民主制導入のための環境がこれほど整っていたことはない。ツールがあって人々が望むのだから、やらないという理由はありません」というコメントが個人的にはとても印象に残りました。各自、各都市がなにも一から始める必要はない、あるものを試してみて、経験をシェアして、みんなで実践を積み重ねていけばいいという姿勢に、とても共感しました。Pnikaとしても、この世界規模での社会実験に参加する機会、ぜひねらっていきたいと思います。

そして、来月11月横浜で開催される「Asia Smart City Conference 2018」に登壇するため、「DecideMadrid」の各地への導入サポートの責任者であるマドリード市議のMiguel Cataniaさんが来日するそうです(登壇は14日を予定)。「DecideMadrid」の詳細については、改めてレポートします。

※1: 2009年、コメディアンのBeppe Grilloとネット企業家のGianroberto Casareggioにより創設されたイタリアの政党。2009年の地方選挙、2013年の総選挙で躍進。2016年春にはローマやトリノなど主要都市で勝利して市政を握る。2018年3月の総選挙では得票率3割を超えて第一党へ、6月に連立政権をスタートさせた(参照(一部):コトバンク)。

※2「ローカル・ガバナンスという概念には様々な用法があり、混乱も見られるが、大きくいって二つの視点を共有しつつある。第一に、地方政府(議会を含む)と住民だけではなく、自治会、NPO・市民団体、職員団体、福祉団体、環境団体、企業、経済・業界団体といった多様なアクターを想定していることである。第二に、これらのアクターの間に一方向的な統治・被統治、委任・請負の関係を想定するのではなく、相互的な影響関係を想定していることである。財政難やグローバリゼーションによる政府機能の後退と、市民社会の側の一定の組織化が、以上のような視点を要請しているといえよう。」(引用:東京大学社会科学研究所全所的プロジェクト研究『ガバナンスを問い直す』

(平尾久美子)

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