丸森サウナの挑戦! —フィンランド式サウナ建築までに乗り越えてきた規制の壁—

プロジェクト
【サウナ×ルール】アウトドアサウナイベントをより広げるためのルール作りをしたい

2019年07月25日

課題特定


「整った!」と静かなブームを起こしているサウナ。極限まで熱さに耐え、冷水に浸かる。それらを繰り返しお風呂の外で一息つくと、全身が多幸感に包まれるサウナトランス状態になるという。サウナ道を極める人々はその状態を「整った!」と表現する。夜、サウナに行くことを楽しみに、仕事を早く終わらせるようにしている人も多いのではないだろうか。
 
サウナ発祥の地であるフィンランドに赴き、本場のフィンランド式サウナと同様に、川の近くでサウナ施設を作り、東北の地域活性化に取り組むチームがある。宮城県丸森町でフィンランドサウナ施設を経営するMARUMORI-SAUNA株式会社チームである。


きっかけは一枚の写真


 そのチームメンバーの一人、本多さんは東北各地で行政から委託された起業家支援業務に携わるなか、この起業家支援は持続可能なのか? 東北各地の人々に対して、本当の意味でチャレンジを促すことはできているのか?と悩んでいた。
 他人に「起業しましょう!挑戦しましょう!」と言われても、人は挑戦しない。まずは自分がやってみて、その楽しそうな背中背中を見せることで、地域の他の方々も「あいつができるのだから、俺もやろう!」「なんだか楽しそうだから、私もチャレンジする!」となるのではないか。 事業として成立させることで、その地域内で持続可能な起業家支援の仕組みができるのではないかと考えていた。。この事業テーマを模索するなか、閃いたのが「サウナ」だった。
 

糸井重里さんの移動式サウナの記事にあった海に飛び込む写真(https://www.1101.com/switch/sauna/)を見た瞬間から、これが東北にあったら面白い! サウナに入るとビールが飲みたくなる、ビールと一緒に食べたくなるものといえば…と地域の資源を生かした様々なアイデアが湧いてきた。そして、2017年6月、「丸森町を元気に!」との想いだけで、フィンランド視察を敢行。同行したのが、丸森サウナの後の創設メンバー2人[ST2] だった。フィンランドからの帰国後、他の創業メンバーも参画。それぞれが丸森地域で造園業や断熱にこだわりを持った工務店、観光物産振興の事務局員などの本業を持ちながら、個々の強みを活かし副業として丸森サウナの事業に携わることになる。 
 
MARUMORI-SAUNAチームと丸森町役場のメンバー



本場フィンランドのサウナ小屋。湖のすぐ側に設置されている




フィンランドの視察を通し、本場サウナの魅力の虜になったメンバー一同。共同代表である阿部さんはフィンランドでのサウナの魅力をこのように語っている。
 
「最初は冷水に浸かるなんて考えられなかった。それに日本のサウナは温度が高く息苦しいイメージがあったんです。でもフィンランドの湿度の高いサウナでは全然息苦しくなく、それに、サウナで温まった後に肩まで冷水に浸かることで、思考がクリアになる感覚に病みつきになりました!」
 
 

「河川法上の許可」問題

 
地域に火を灯すことを決意したメンバーだったが、サウナ事業をスタートするまでの道のりは決して簡単ではなかった。
 
最初に問題になったのは、サウナの建設許可である。フィンランド式サウナを実現するには、川の近くにサウナ施設を建てる必要がある。土地については、丸森町の所有地であり、適正な手続きを経て、賃貸することができた。しかし、川近くの土地に建物を建設する場合には河川法上の許可をとることが必要であり、その管轄は県であった。 県に交渉に行ったところ、川の側にフィンランド式サウナという建物をたてることへの理解が得られず、交渉は暗礁に乗り上げた。これでは話が進まない中で、地元丸森町役場の関係者のサポートをいただき、改めて県に相談にいくことにより、工事着工の許可を得ることができたのだ。
 
ただ今後も別の地域でフィンランド式サウナを同じように活用したいと志す人が現れた時、前例がないからと受け取ってもらえない場合も多くだろう。河川の付近にサウナ小屋を建設することについて、どのような場合であれば許可されうるのか、論点の整理と基準の明確化を行い、発信していくことが必要だと考えている。 

お次は「公衆浴場法」

 
ほっとしたのもつかの間。次に課題となったのは公衆浴場法である。公衆浴場法は昭和23年に制定された全11条からなる法律である。この法律では、銭湯をはじめとする公衆浴場について、その設置について都道府県知事(保健所を設置する市及び特別区については、市長・区長)の許可が必要である旨をさだめており、具体的な手続きについては、各地域の保健所が窓口となっている。
 
丸森サウナはグループの貸切での利用を前提としていたため、トイレや洗面所を一つずつ設置することで予算を組んでいた。しかし宮城県の保健所に申請したところ、女性と男性用両方の脱衣所、男女別のトイレを設置しなければならないと言われてしまい、急遽、建築計画の見直しと水回りの追加工事が必要になってしまったのだ。
 
公衆浴場法は公衆衛生上の問題なく公衆浴場を事業者に運営してもらうことを目的として作られている。宮城県では、サウナ単体での事業は他に例がなく、ホテル内や湯船とともにサウナが設置されているので、トイレ設置数を課題とする例は今までになかった。保健所との交渉の結果、制約のもと苦心しながら建設したのが、今の丸森サウナの施設である。
 
2018年11月10日に正式オープンし、またオープンと同時にサウナの魅力を伝えるTOHOKU SAUNA FESを実施するなど精力的に活動している。
このイベントでは、テントサウナなど複数の形態のサウナを仮設で用意するが、公衆浴場法の委任を受けて制定する都道府県の条例における安全基準は、このような形態のサウナ利用を想定していない。それら基準の遵守をできていないと「業」として反復継続した形でのイベントはできないと言うことで、イベントの開催頻度も実は制限されている状況にある

サウナ専用施設に対する安全基準の確立など、今の実態にあった公衆浴場法のアップデートが必要である。

 
完成したサウナ小屋


ポップな内装。サウナ後のハンモックはまさに至福の時間。
 

TOHOKU SAUNA FESの様子
 



丸森サウナのこれから

 
事業を進める上で、他にも様々な法律や規制と向き合ってきたメンバー。最近は法律や規制にかかりそうな事項に対する嗅覚が働くようになってきたという。
 
「今やっとスタートラインに立てた。これからこのサウナ施設を中心に、農泊や飲食を営む地域の仲間たちとのコラボをどんどん仕掛けていきます」と、丸森地域のみなならず、東北全体をこの事業を通じて火をつけて周りたいと情熱を持つメンバーの皆さん。
 


東北の各地域から「整った!」の声が巻き起こるのもそう遠くはないかもしれない。
 
ぜひ皆さんも、フィンランド式サウナの魅力を丸森地域で体験してみてほしい。そして、普段は意識しない法律やルールをサウナの中で語り合う、、そんな夜があってもいい。
 
 (文責:隅屋)

プロジェクトページへ戻る