とある国の王様の物語 ールールメイキングの思考の型とはー

2012年06月23日

ルールとは何か

ルールを変えようとするものは、ルールとは何かを知らないといけない。その基本の思考の型をわかりやすく伝えるために作った講義資料を、日頃より省庁の中で法令の審査を行っている法令審査専門官の西野智博さんに解説していただきました。

自主規制をはじめ民間や市民側も積極的にルールを設計し提案していくことが求められる中で、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思っています。

それでは物語のはじまりはじまり。


















ここまで読んでみていかがだったでしょうか?
ここまでのたとえ話は、法律や制度を作る上では下記のように置き換えることができます。

王様=ルールを考え、作る人(現在は、政治や行政の役割)
 化物=社会利益を害するもの
 化物からの被害防止=法益(法令があることにより守られている利益であり、法令の存在意義)
 壁=法令
 車、高速道路=技術的進歩

法令とは、法律、政令、省令、告示のことです。通達は法令ではありませんが、法令の解釈や運用を示すという意味で重要になってきます。

 

図1 法・制度のレイヤー構造

法益とは法令があることにより守られている利益のことで、ルールを変更する上では、変更すべき理由や根拠となる情報を集め、ルール変更しても、法益が確保されるかを検証する必要があります。

今を生きる自分たちから見たときに、不条理に思えるルールであっても当時それが作られた時には、そのルールを作るに足る理由や状況(立法事実と呼びます)があったわけです。それを知らずに提案をしても、法令により回避していたリスクが再び顕在化してしまい、物語でいう化け物にみすみす街を襲わせることになりかねません。

 ポイント1:ルールを変える時は、まずそのルールの存在理由(法益)と立法事実が何かを知ろう!

それでは法益や立法事実を知ったあとに、考えなければならないことはなんでしょう。それはその法益が今でも通じるものなのか。つまり、まだ化け物から街を守るというルールの存在意義があるのかどうか。もし化け物という脅威がいなくなっているとすれば壁の必要はありません。
 また、化け物という脅威は存在するけれども、高速道路や車というという新しい技術も使いたいとします。このとき、化け物の正確なリスクを知っていれば、法益を守りつつも、壁の外にいきたいとういう住民ニーズに答えることができます。その場合も、ルールの改正について検討することが可能となります。

ポイント2:当時の法益や立法事実と現在の社会状況を比較しよう

ただ難しいのは、物語のように明確にルール(壁)の根拠がある場合と、それがはっきりしないけれども害悪を防ぐために社会の合意として保守的に決めたものである場合があるということです。保守的なルールのままにしておけば、リスクはごくわずかにできるかもしれません。しかし、今後、テクノロジーがどんどん進歩していく中で、メリットが大きくなれば(例えば、車が使えれば、隣の街の優秀な医者に急患を運べて、命が助かるなど)、メリットとデメリットを比較して、新たな社会の合意として、ルールを作りなおすことを検討する局面が増えるでしょう。

そうなった時に、変化するリスクをとるのか、変化しないリスク(この例では、高速道路を作らなければ、次の100年も化け物には襲われないかもしれませんが、急患を助けることはできません。)をとるのか。同じような悩みは、再生医療など、科学と倫理の狭間でルールを考えなければならないテクノロジーでも同様に抱えています。こうしたテクノロジーが身近になったからこそ、行政だけで判断するのではなく、民間や市民などマルチステークホルダーが積極的にルールメイキングに参加していくことが重要です。

ポイント3:どのように運用されているか把握しよう。

また、ルールを考える時には、実際の運用がどうなっているのかをしっかり確認する必要があるということです。多くの法令は、法令の枠組みと現実の微妙な齟齬を現場でチューニングしながら運用されています。ルールはプログラムのようなもの、と言いましたが、実際には、プログラムされた生き物、というのが正しいでしょう。どのように変えていくべきか、アップデートが必要なタイミングか。その一番最新の情報を知り、条文で書かれた法令と実際の運用に乖離が起きているのに気づいているのは、現場の対応を行っている行政官や民間の人かもしれません。

社会に無用な混乱を生まず、かつ自由への制約も最小限にして、どのように社会秩序を守っていくのか。何もルールがなければ、事業者自身が自律的にするであろう、「自分たちが作る製品・サービスのリスクを把握し、リスクを最小限に、そしてメリットを最大化するために対策する」ということは、法令を考える上でも同じく重要です。法令だからといって極端に難しく考える必要はありません。

 


とある国の王様、そしてその孫のように、Pnikaもうんうん唸りながら、様々な立場のステークホルダーと一緒に、今あるべきルールについて考えていきたいと思います。

西野さん、資料を解説してくださり誠にありがとうございました。

日々ルールと向き合う西野法令審査専門官のインタビュー記事はこちら。
日頃から悩みながら、ルールと向き合っている様子が伝わってきます。

(隅屋 輝佳)

西野智博氏 プロフィール
経済産業省大臣官房総務課法令審査専門官。2012年経済産業省入省。産業人材、電気保安、水素エネルギー・スマートコミニュティなどの政策分野を経て、2017年6月から現職。

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