第1回デジタル・ガバメントは、日本を「課題先進国」から「課題”解決”先進国」へ変える必要最低条件

2019年02月20日

Pnika編集部では、”行政手続きが便利になるだけ”と思われがちな「デジタル・ガバメント」について、今、国民として、ビジネスマンとして知っておきたいその変革の本質と、それぞれの立場に求められていることやメリット・デメリット、そして課題をさまざまな視点でピックアップして、特集を組んでいきたいと思います。

第1回目の今回は、まずは「デジタル・ガバメント」とは何かについておさらいしながらその推進に必要なことを”利用者”の視点から考えていきたいと思います。


【本記事のポイント】
 1. デジタル・ガバメントは、民間にとってもイノベーションの好機
 2. デジタル社会へ対応する法規制の徹底的な見直しがイノベーションのエンジンとなる
 3. 国家全体の”適切な変革”には、”政府×専門家×企業×世論”のすべての当事者が必要
 4. Pnikaでは、政府関係者も巻き込んだワークショップの参加者を募集中(3月9日と10日で2回開催)
ワークショップイベントの参加応募はこちらから


「デジタル・ガバメント」とは何か

2018年の初頭から『デジタル・ガバメント実行計画』『デジタルファースト法案』という言葉が紙面に躍り出はじめました。

『デジタル・ガバメント推進方針』によると、その定義は、「サービス、プラットフォーム、ガバナンスといった電子政府に関する全てのレイヤーがデジタル社会に対応した形に変革された状態」とされています。この「サービス、プラットフォーム、ガバナンス」の「全て」というのが重要で、これら3柱が相互的に作用しあわなくては成立しません。

 

※デジタル・ガバメント実行計画から引用

今、このように、行政にデジタル・トランスフォーメーションの波が押し寄せている背景には、日本が多様な課題を抱えたうえで、約20年後に896市区町村が消滅し3人に1人は65歳以上になり、あらゆる社会構造が劇的に変化することが余儀なくされているという現実があります。政府は、行政の効率化は喫緊の課題として捉え、その活路をデジタル化に見出そうとしているわけです。政府には、「Digitize or die (デジタル化するか、さもなくば死ぬか)」が突きつけられているといったところでしょうか。

これから5年間、政府のあり方が劇的に変わる

「デジタル・ガバメント」というと、行政手続きが原則100%オンライン完結するといった、受け手にとって分かりやすい内容がフィーチャーされることが多いです。電子国家として有名なデンマークやエストニアを彷彿とさせ、イメージが湧きやすい方も多いかもしれません。

 


また、技術的な側面やSociety5.0で出てくるデータ駆動型社会の文脈で注目されるのは、行政サービスがデジタル化することで可能になるEBPM(証拠に基づく政策立案:Evidence-based policy making)や、行政サービス・データの標準化・オープン化による官民連携の創出です。



このように、さまざまな事象を並行して進めなくてはならないうえで、ボトルネックとなっているのが、デジタル化・オンライン化を妨げている法令上の記述です。これを解消するための規制改革チームが各種構成されており、行政サービス面での大きな指針として、『デジタルファースト法案』の施行が急がれています。

行政サービス以外についても、この裏側で平成28年から動き出している「規制改革推進会議」では様々な『いまの社会情勢に合わせた規制の改革』があらゆる分野で行われています。

ここまで見てきたとおり、「デジタル・ガバメント」は行政の効率化のためという側面が強いことは否めませんが、果たしてそれだけなのでしょうか?「デジタル・ガバメント」、そしてそれがもたらす規制改革は、私たちの生活、ビジネスに実際にどのような影響を考えてみたいと思います。

規制改革が生むビジネスチャンス

<『犯罪収益移転防止法施行規則』と生体認証テクノロジー>

規制が改革されるところに商機あり…、一例をあげましょう。
 2018年(平成30年)11月30日付けで、『犯罪収益移転防止法施行規則』が施行されました。

この法改正によって『銀行口座の開設』という私たちにとって身近なサービスにイノベーションが起きはじめています。

今までもオンラインでの口座開設そのものは可能でしたが、その際の本人確認の方法は「顧客から身分証(写し)の送付を受け、顧客宅に転送不要郵便を送付する方法」と規定されており、新規口座の開設をオンラインで申し込んだ場合、「転送不要郵便」を送付する必要がありました。

それが改正を受けて「本人確認書類(顔写真付き)の画像の送信を受けるとともに、顧客の顔画像の送信を受ける方法」が可能となりました。転送不要郵便の送達の完了を待たずに取引を開始することが出来るため、ユーザーにとっての利便性が大きく向上することとなりました。

こういった変化によって、いま顔認証を得意とするベンチャーが大手銀行などと提携が始まっています。とある、生体認証を得意とするベンチャーのプレスリリースでは、


口座開設以降の取引時(送金時等)において、ユーザーの顔画像と口座開設時に送付を受けた顔画像との顔認証(マッチング)を行うことで、第三者による口座の不正利用を抑止することが可能となります。将来的には、ATM等に設置されたカメラにより撮影された画像との認証を行うことで、不正な現金の引出しを抑止し、セキュリティを向上させることが可能となります。
 (某生体認証ベンチャーのプレスリリースより引用)


といったことも記載されており、今後関連したオンラインKYCサービスが続々と登場していくことが予想されます。

「デジタル・ガバメント」によって進む規制改革は、いままで決まり文句のように「規制があるから…」とデジタル化が進まなかった領域において、ビジネスチャンスとなる余白を生み出していく可能性が多く潜在しています。

その中で、新しい技術を用いたビジネスは、元々法規制上想定されていないことが多く、グレーゾーンをうむ土壌となります。実際、グレーゾーン解消について、政府でも対応の検討が進んでおり、大企業だけでなく、スタートアップにも(むしろスタートアップにこそ)、ロビイングやルールメイキング戦略を能動的に仕掛けていく必要性が、より一層増しているというのが現状でしょう。

各省庁が参加する規制改革ワーキンググループには、そんな商機が多く見られます。
 テクノロジー企業は一度アクセスを強くお勧めします。

チャンスの裏にはリスクもあります。

行政手続きの印鑑がなくなる=市場や文化がなくなる!?

当然、変化があるときに起きるのはチャンスだけではありません。

例えば、デジタル化・オンライン化の壁のひとつに『印鑑の義務』が存在します。
 おそらく多くの皆さんが「あ、印鑑忘れた…」と窓口で顔をしかめたことがあるのではないでしょうか。
 印鑑は見積書や契約書、手続き書類など様々な用途にて用いられます。
 その使用目的は、『印鑑を所持している(本人性の確認)』や『押印による承認の意思表示』をすることでそれらの関連する契約、承認業務、手続きの不正を防止する役割を主立って担っています。
 3Dプリンターといった偽造を容易にする技術が出ても社会生活の上ではその有効性・必要性は揺らぎません。

デジタル・ガバメントの中ではデジタル化・オンライン化を推し進める上で印鑑がなくてもオンライン上で手続きが可能にするための施策や検討も数多く進んでいます。実際に現時点でもマイナンバーカードの電子署名には実印相当の効力が認められています。

デジタル化・オンライン化は省力化・効率化・定量分析の容易化・サービス利用の簡便性向上といった『変えることのメリット』が見込める一方で、『変えることのリスク・デメリット』も同時に論じられる必要性があります。

現在『法人設立時の手続きをすべてオンライン化する』という取組を政府が進めており、その中での『印鑑の廃止』を鑑みても、印象業界は関連市場も含めると約9000業者、その市場規模は約1700億円であるため、ここへの影響が考えられます。また、法人設立時の手続きについては『印鑑の廃止』に賛成している場合でも、タイミングや手法については”時期尚早”や”ニーズは現状ないのでは”といった声も上がっています。

また、間接的にオンライン・非対面が主流となれば窓口をしていた人たちの仕事は減っていきます。行政窓口は民間の人材派遣会社が受託しているケースも多いです。これも一つの市場の減衰です。
 


法制度を含め、適切なサービスを具現化していくためには、どのような設計が求められているのでしょうか?

サービス設計12ケ条

デジタル・ガバメントの方針のひとつに、高いUX、利用者中心のサービスの実現のために『サービス設計12箇条』というものがあります。
 

※2018年7月改定のデジタル・ガバメント閣僚会議『デジタル・ガバメント実行計画』から抜粋

その中で『第2条 事実を詳細に把握する』という記述があり、『実態の十分な分析を伴わない思い込みや仮説に基づいてサービスを設計するのではなく、現場では何が起きているのか、事実に基づいて細かな粒度で一つ一つ徹底的に実態を把握し、課題の可視化と因果関係の整理を行った上でサービスの検討に反映する。データに基づく定量的な分析も重要である』としています。

この『実態の十分な分析を伴わない思い込みや仮説に基づいてサービスを設計するのではなく』というところが非常に重要と考えています。

デジタル化・オンライン化が進む中で影響は限りなく多岐にわたります。

そして、必ずしもそれを政府がすべて漏れなく検知できるとは限りません。また大きい声ばかりが勘案され、大多数の影響を受ける当事者にとって不都合な制度や法令、サービスとならないよう、各当事者の視点で課題や論点を整理する必要性があります。

当事者の私たちが社会変革の波を捉えるために

デジタル・ガバメントで起きる社会変革は待ったなしの状態です。

一方で本来社会構造の在り方、特にルールとなる法規制、法令にはメリット・デメリット・リスクといった論点を整理するためには熟議が必要です。

デジタル化された社会を構築する上で全体にとって最適なものをデザインしていくにはそこに影響を及ぼす、影響を受ける当事者からの声を元に『現場では何が起きているのか、事実に基づいて細かな粒度で一つ一つ徹底的に実態を把握』していくことの重要性が増していくと考えられます。

ただ、現在ではこれらの声を収集して整理する機能が十分にあるかと言えば先に挙げた法人設立のオンライン化でも、有識者が資料として提供した111件の事業家へのアンケート結果だけであり、まだまだ不足しているのではないでしょうか。

海外を見ると ~台湾の政府が採用した法令調整プラットフォーム「vTaiwan」~

すでに市民からの意見をダイレクトに反映する手段として台湾ではオンラインで法令について意見を酌み交わすための「vTaiwan」というプラットフォームがあります。
 仕組みは非常に簡単で、①課題提起を挙げ、②意見を集め、③関係者がオンラインでオープンに議論をし、④”②と③”を繰り返し、④制度設計に反映していく、といった流れをこのプラットフォーム上で行っています。

オンラインプラットフォームを上手く使いながら、オフラインでのワークショップや会議といった調整を繰り返していくことで利用者のインサイトを反映した制度設計に繋げています。

2018年2月末までに、vTaiwanを活用した官民参加型での制度設計のプロセスによって、26のケースが議論され、その80%が決定的な政府の行動(法・制度設計・ガイドラインへの反映、新規成立)につながっています。


  ※vTaiwan(https://vtaiwan.tw/

デジタル・ガバメントについて考える~政府担当者とワークショップします!~

Pnikaでは、今後デジタル・ガバメントについて調査・取材を通して皆さんにお伝えするとともに、

『国家全体の”適切な変革”には、”政府×専門家×企業×世論”のすべての当事者が声を挙げる、巻き込んでいく』

ということに挑戦していきます。

まずは、3月9日に内閣府でデジタル・ガバメントを推進されている担当者と事業家や市民といった各々の立場の方々を巻き込んだワークショップを予定しています。続く3月10日には鎌倉市役所と合同でテレワークについてのワークショップも開催します!

実際に台湾で政府メンバーも巻き込んだロビイングを行っているvTaiwanという団体や、日本で政府と市民を巻き込んだオープンガバメントの取組を展開しているCode for Japanとコラボレーションとなります。

そこで出来るだけ多くの声を元に議論を考えるために事前にオンラインでもアンケートを募っていますので皆さんご協力を頂けますと幸いです。

(Pnika 深山 周作)

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