新規事業を「実証」してから規制制度の見直しを促すことができる!|1からわかる「規制のサンドボックス制度」

2020年02月21日

◆はじめに

「新事業を始めたいけれど、法規制にぶつかる可能性があるのに、実証できないのでデータを提出できない...」
このような状況に遭遇する事業者にとっては”まず、やってみてから法規制との兼ね合いを考えたい”という願いが切実であるといえます。この記事では、実証を行ってデータを集めてから、その成果を規制緩和の検討につなげることができる新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)をご紹介致します。

◆概要

近年、AIやブロックチェーンをはじめとする新たな領域にチャレンジしていくイノベーターが増加しています。これらのイノベーティブな事業者には「迅速に事業を実証したい」という望みが存在しています。しかし、”法規制に抵触するのではないか”というネガティブな要素が、その事業を妨げる場合に於いて、新規事業の実証を行うことができず、結果的には「事業化が難しい」と判断する場合もあるでしょう。


新技術等実証制度(以下「規制のサンドボックス制度」と呼びます。)は、革新的な技術、ビジネスモデルを対象に参加者や期間や地域を限定した技術やサービスの「実証」を行い、そこで得られたデータを基に規制緩和(法令改正、解釈の明確化、通達や指針の改正など)を推進していく制度です。

「〇〇という技術やビジネスモデルが、▲▲という規制とぶつかっている or ぶつかる可能性があって、”実証”を通して規制緩和を国に促したい」という事業者向けのものとなっています。

規制の見直しを促すことができる各制度については、以下の記事もご覧ください。

◆制度の特長

規制のサンドボックス制度では、「まずやってみること」が許容されており、そこから得たデータを基に規制当局を巻き込んで議論していくことが期待されています。

迅速な実証と、社会実装の実現 (引用:新技術等実証の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針|内閣官房 日本経済再生総合事務局)」が制度の基本理念として掲げられていますが、スピード感のある展開を望むイノベーターにとって、活用方法次第では、事業のスケールを推進するものとなると考えられます。

「実証」を通じて、予期していなかったリスクを事前に把握しておくことができる点は、この制度特有のメリットといえるでしょう。ビジネススキーム、プロダクト等のリスクを、マーケットに展開する前に発見し、規制当局と一緒に課題解決を図ることができるかもしれません。

ただし、規制のサンドボックス制度を利用する為には、「計画の策定」を行い「認定」を得る必要があります。次のセクションでは、実際の利用の流れをみてみることに致しましょう。

◆利用の流れ

①実証の事前準備を行う
社内で、「どういう事業を実証したいのか」「懸念事項は何か」「そもそも目的は何か」という点を予めまとめておくことがベターです。

②窓口への事前相談
日本経済再生総合事務局 新技術等社会実装推進チームが「一元窓口」となっています。Web上の申込フォームから連絡し、事前相談を行います。以下のリンクをご参照ください。

③申請書を作成し、主務大臣へ提出
事前相談による調整後、「規制のサンドボックス制度」を利用できる可能性が高い・事業者としてもチャレンジしてみたい、という形でまとまったならば申請書を作成します。この申請書は、新技術等実証計画(以下「実証計画」と呼びます。)を含むものであり、「どうやって実証していくのか」という点を計画にブレイクダウンする必要があります。

申請書に盛り込まねばならない事項は以下の通りです。

  • 実証内容 (例:AIを使った○という事業)
  • 参加者等の範囲と同意の取得方法 (例:当該サービスの利用者等、Web申込時に同意ボタンを設置)
  • 実証の期間・場所 (例:期間は3ヶ月、場所は●市の●の範囲またはインターネット空間上等)
  • 実証に関する規制法令 (※なるべく条項を特定するのがベターです)
  • 実証に必要な規制の特例措置の内容 (※特例措置を受け実証を行う場合、必要となります)
  • 実証を適切に実施するための措置 (例:関係者以外が立ち入らないようにフェンスを設ける等)

申請書に関しても調整を行った後、ようやく主務大臣(行政事務の遂行について主管権限を持つ大臣)へ申請書を提出することができます。

④主務大臣、申請書を受領後1ヶ月以内に革新的事業活動評価委員会に見解を送付し、同委員会の意見を受領後1ヶ月以内に「認定」の可否を通知
正式な申請書を提出してから約1ヶ月~2ヶ月程度で「認定」の可否について、通知を得ることができます。

⑤実証スタート→「規制の見直し」
事業者は定期的に状況を主務大臣に報告する必要が生じます。実証期間終了後は、規制所管大臣が実証結果に基づき「規制改革推進会議」などで規制の見直しを検討するスキームとなっています。

もし規制が見直される場合には、全国的な規制の見直しに繋がる可能性もあります。

「規制のサンドボックス制度」のフロー

◆注意するべきポイント

この制度では、一旦「認定」を得た場合であっても、取り消される可能性があります(出典:新技術等実証の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針)。

即ち"実証が中止される場合がある"ということを意味しています。例えば、当該実証を適切に実施するために必要となる措置を講じていない、実証を円滑かつ確実に実施するのに十分な参加者等の同意が取得できない...等の状態が認められる場合、認定が取り消される場合があります。実証では、計画を確実に遂行していくことが求められているといえます。

また、「規制のサンドボックス制度」の実証を通じて、事業者も規制当局も予期していなかったリスクが顕在化する可能性もあります。このような場合、「規制の見直し」や「事業の展開」というイノベーターの要望が必ずしも実現しない場合があることは留意しておくべきであると考えられます。

◆まとめ

イノベーターには、事業を早いスピードで展開し、新しい領域におけるマーケットシェアを圧倒的に高めたいという願いが存在します。

従来、「規制の見直し」というトピックに於いて問題となってきたのは、”その事業(ビジネススキーム)がもたらすインパクトをどう実証していくのか”、という点でした。今回取り上げた「規制のサンドボックス制度」は、期間と参加者を限定し、実証を行い、規制の見直しが検討されるものです。この制度の活用により、たとえスタートアップであっても、積極的に規制への対応・ルールメイキングに参加することができます。

ブルーオーシャンに乗り出す際に、「法規制との兼ね合いを検討したいが、実証データに基づいて、規制当局に働きかけたい」場合、この「規制のサンドボックス制度」をオプションにいれると良いでしょう。

(執筆:町田 太朗)

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◆参考文献

  1. 規制のサンドボックス制度|内閣官房 日本経済再生総合事務局
  2. 新技術等実証の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針|内閣官房 日本経済再生総合事務局
  3. 新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)について|新技術等社会実装推進チーム
  4. 【まとめ】イノベーターが活用出来る国の4つの「規制緩和制度」|Pnika

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