Pnika1周年Annual Report 

2020年02月22日

ちょうど1年前、2019年2月22日、Pnikaを設立しました。ルールのデザインをより開かれた場で行えるようにすることで、誰かの手で決められた未来ではなく、自分たちがほしい未来を作れるようにしたい。そして、イノベーションが既存とは異なる新しい価値を生み出すという性質をもつ以上、本質的に今あるルールとぶつからざるを得ない中で、新しい挑戦がちゃんと社会に実装できるエコシステムを日本にも作りたい。そんな想いで取り組んできました。1年の節目ということで、2019年を振り返り、現在地についてご報告したいと思います。

1)ルールメイクのプロセスこそ対話の場にふさわしい:「vTaiwan」からの学び」




CodeForJapanさんと一緒に、私たちが目指す一つのモデルである、台湾のクラウドロープラットフォーム「vTaiwan」(ヴィタイワン)を運営するシビックテックチームをお招きして、3月に2日間のイベントを開催しました。クラウドローとは、直訳すれば群衆による法制度ですが、「法律の質を向上させるために、テクノロジーを使用して、一般の知性と専門知識を活用する実践」 (https://crowd.law/crowdlaw-af1a9e1c9455)と定義されており、その先進事例として世界でも注目を集めているのが「vTaiwan」です。イベントの前半は、台湾チームからのプレゼンテーションにより合意形成プロセスを学び、後半は、ワークショップでそのプロセスを体感するという構成でした。


→台湾発の合意形成プロセスを学ぶワークショップ@霞ヶ関・鎌倉を開催


「vTaiwan」は、2014年3月のひまわり学生運動で、市民と政治・行政の乖離を痛感した政治家の呼びかけに、シビックテックコミュニティ「g0v」(ガブゼロ)が応じて、2014年12月に立ち上がりました。「制度設計のブラックボックスを開く」ために、「けんかをしても良いから、本音で課題解決のために話し合う」。以来、約5年の間で、26件のテクノロジー関連のルールがアジェンダとして成立し、その80%が実際の政策形成に影響を及ぼしています(現在も、1件のアジェンダ(電動スケートボード規制)が進行中です)。

例えば、Uberは「vTaiwan」プロセスを経ることで、合法化により事業者が市場撤退を免れた事例ですが、社会の課題として「タクシーサービスの向上」を目指すことにステークホルダーが合意し、アジェンダとして成立させることができたことが出発点でした。この「タクシーサービスの向上」という社会課題は、事業者、タクシー業界、タクシー運転手、Uberを利用したい市民、Uberの利用に懐疑的な市民の声から抽出されたものです。このゴールへ向かって、残された論点である安全性や労働者の権利などの懸念を回避するため、それぞれのステークホルダーがその対策を持ち寄り、議論を深め、ルールを詰めていくというプロセスでした。

ルールを共通のゴールとして議論する、ルールメイクのプロセスが、社会課題の解決のための対話の場にふさわしいという、私たちの仮説の可能性を体感するとともに、一方で、プラットフォームとして稼働するには、アジェンダセッティングの能力、発散と収束を切り分けるオンライン・オフラインのプロセスの調整など、その負荷に耐えうるコミュニティを実現する重要性を認識する機会となりました。


2)オープンコラボレーションを具現化する:プロジェクトの進捗



今、Pnikaには、ルールメイキングのオープンコラボレーションとして、2つのプロジェクトがアップされています。一つは林業の補助金の申請に関するプロジェクトであり、もう一つはアウトドアサウナと公衆浴場法に関するプロジェクトです。課題の特定、調査、制度化という大枠のフローのなかでプロセスをどのように展開していくかについて、検証を始めています。

①林業 × 補助金適正化法

林業は、木材を売るビジネスとしての側面と、森林の多面的機能を維持する公共事業としての側面の両面が存在し、後者(間伐など)に対しては、補助金によりその作業コストが補填されています。株式会社百森(岡山県西粟倉村) の中井照大郎さんは、補助金の受給のための様々な手続きの一つである現地調査に、ドローンや衛星などのリモートセンシング技術が活用できないかと考え、Pnikaにご相談をいただきました。

Pnikaでは、中井さんからの課題意識のシェアを受けて、専門家をマッチングし、7月にプロジェクトとして立ち上げました。複数県の担当者へのヒアリング等を通じて、課題と論点を整理し、検査の方法は県に裁量があることから、各県の「検査マニュアル」の記載や解釈がポイントになることを特定しました。現在、事業者は県の担当者と協議を進め、リモートセンシング技術が現地検査に代替できることを証明するための実証事業を進めています。

→最新技術で森林資源をもっと活用していきたい。




②アウトドアサウナ × 公衆浴場法

アウトドアサウナとは、湖や川の近くにテントサウナやサウナ小屋を設置し、サウナで温まったら川や湖に飛び込むというフィンランド発祥のアクティビティで、自然の観光資産の活用にも繋がることから、地域活性化の文脈でも注目されています。しかし現状は、アウトドアサウナを事業として行うときに許可をする基準が明確ではないため、銭湯のなかのサウナを想定した公衆浴場法に関する条例が参照されることで、地域によっては許可がおりないという状況が発生しています。Pnikaがこの課題を知ったのは、宮城県の丸森地域でサウナ事業を行うMARUMORI-SAUNAの皆さんとの出会いがきっかけでした。

そこで課題を整理した上で、PnikaのWebプラットフォームにプロジェクトとして掲載したところ、厚生労働省の官僚の方からもコンタクトをいただき、公衆浴場法を管轄する担当の方を繋いでもらうことができました。また事業者の方からも、実態について情報提供をいただき、課題をオープンにすることのメリットとして、プロジェクトを進めるために必要なステークホルダーが集まってくることにあると確信しました。このような反響を受け、8月にアウトドアサウナのOPEN MTGを実施しました。OPEN MTGとは、誰もが参加でき、ルールの中身をオープンに議論する場です。当日は、事業者やアウトドアサウナユーザー、また多様な省庁の官僚の方など、約40名にお集まりいただき、現在、事業者を中心にコンソーシアム発足に向けた準備を行なっています。

→アウトドアサウナイベントをより広げるためのルール作りをしたい






3)プラットフォームを稼働させるコミュニティ:メディアの強化に向けて



昨年は、ルールメイクへの参加のありかたを考えるため、またプロジェクトのシード探しとして、お話を伺った方で記事として公開が可能なものを発信するというスタンスでした。ご協力いただいたイノベーターの皆さんのお話を伺うなかで、例えば、世界的なアジェンダでもある環境問題、テクノロジーと医療、農業・林業と地域活性化、食の規格をめぐる競争など、幅広い分野でルールメイクへの参加についての関心が高まっていることを実感しました。また、イノベーター向けに、ルール改正提案作成の観点とプロセスを学ぶためのワークショップを東北社会起業家アクセラレータープログラムと博報堂社内で実施しました。同様のお声がけをいただくことも増えてきています。

前述のとおりプラットフォームとして稼働するには、それを支えるコミュニティが重要であり、今後は、コミュニティ醸成のためにも、メディアとしての情報発信に注力していきたいと考えています。2020年の年始から、まずはイノベーター視点でのルールメイキングに関する記事を発信する体制を整え、始動しています。引き続き、世界のルールメイキングの最新動向や、日本の地域や社会でのボトムアップのルールメイクへの参加に向けた動きもフォローできる体制を整えていきたいと考えています。

2019年は、クラウドファンディングにもトライをし、”みんながオープンにルール作りに関われる仕組みを作りたい”という抽象度の高いコンセプトであるにも関わらず、88名の方より64万円のご支援をいただきました。期間中は多くの方からの応援や激励のメッセージをいただき、その一つ一つが宝物になりました。応援いただいたみなさま誠にありがとうございました。
また12月には、日本財団の主催するソーシャルイノベーションアワードのファイナリストに選出され、光栄にも大勢の方の前で発表する機会をいただきました。惜しくも受賞は逃しましたが、別のファイナリストの方々から、ルールのアップデートは死活問題なので、ぜひ頑張って欲しいと言っていただく等、自分たちの事業の意義を再認識する機会となりました。

2020年は、プロジェクトを進めてオープンコラボレーションのプロセスを具現化しつつ、メディアでの情報発信、コミュニティ醸成に注力することで、Pnikaをプラットフォームとして稼働させていきたいと考えています。サービスとしてもまだまだこれからという段階ではありますが、応援してくださっている皆さまのご期待に応えられるよう一層精進して行きます。引き続きPnikaをどうぞよろしくお願いいたします。

Pnikaメンバー一同


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